例えば私がアリスなら
ふと零した咲斗先輩の台詞に皆が続く。
「難しいんじゃないか?あんなちょこまか動き回る小動物を」
「そうですね。ライオンだかトラだかに追われても、小回りがきく兎は捕まらないって言いますし」
「うさぎさん……可哀相……」
皆が口々に言う。
なんか、あの兎は今後飼い主に会えない流れになってる。
そして、極めつけは咲斗先輩の言葉だった。
「飼い主に渡せたらよかったんだけど……」
優しい先輩の困ったような笑顔が私のもふもふした足(着ぐるみ)を動かした!
突然兎が走り去った方へ走り出した私に皆が目を丸くする。
「え、真琴!?」
「先輩任せてください!
私があの兎を捕まえてきますから!」
驚いた様子で私を追おうとする先輩に爽やかな笑顔を送り、もふもふと重いピンクの足を前へ前へ動かした。
「いや、ライオンでも無理なんですから無理でしょ」
私の愛はライオンの肉球よりあついの!!
あつい違いか?まあいいや。
それにしても走りにくいったらない。着ぐるみでマラソンとかしたら死ぬかもしれない。
思うように足が上がらないものの、私の前を行く兎との距離はさっきから全然広がらないでいた。
はて、私はそんなに速く走れているんだろうか。
そんなことを考えていると、校舎の中でわりと教室が集まっている場所まで来てしまっていた。
「おい!でかいウサギが来たぞ!」
「ウサギが兎追い掛けてるぞ!」
そんな声が聞こえてくる。
…………私のことか!
着ぐるみで堂々と大衆に飛び込むとか、恥でしょ!!
私の顔は見事にあらわになってるから、ばれる!
翌日ウサギの着ぐるみネタでたかられることが軽々と予知できた私は、なるべく顔が見えないように俯きながらも兎を追い掛け続けた。