例えば私がアリスなら




暫く走るが、やはり兎との距離は広がらない。

そして、狭まらない。



自分的には走り始めよりは明らかにスピードが落ちたと思う。
着ぐるみ無しならまだしも、こんな重量級オプションがついているんだ。
文化部の女子の体力がそんなにもつはずもない。


……兎も疲れてるのかな?



「…………あっ」


息が上がり、足が思うように上がらなくなってきた頃、兎が身軽に右へ曲がり、姿が見えなくなった。

角を曲がったのかと思ったけど、どうやら部屋に入った様子。

追い詰めれば捕まえられる。いける!




残り少ない力を振り絞り、兎が駆け込んだ部屋の前までたどり着いた。




トイレだった。



……兎、トイレ我慢してたのか。



せっかく駆け込めた念願のトイレタイムを邪魔するのも、いくら兎相手だからとは言え気が引けた。

でも、今がチャンス。
もう追い掛ける体力は無い。



とりあえず用を足し終えるまでは待ってやるつもりで、そのままトイレに飛び込んだ。

端から見れば私もトイレ我慢してた人だな。……あ、今は兎か。



駆け込んで兎の姿を探す。
個室に入ったのかもしれないので、端から順番に開かれたドアの向こうを覗く。


しかし、白い便器はあっても白い兎の姿は見えない。


…………まさか、トイレに落ちたなんて……まさかね。

和式トイレを見ながら嫌な光景が頭を過ぎる。





私の視界はトイレに釘付けだった。
私の意識はトイレに集中していた。



だから仕方ない。

私は足元に全くといって言いほど注意を払っていなかった。



だって誰が予想できる?






トイレに大きな穴が空いていたなんて。




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