当たらない天気予報
土足でティファニー


「孝文(たかふみ)、お休み。明日も学校でしょ?遅刻しちゃダメよ」


あんた俺の母親かよ。
気付かれないよう、心の中で悪態をつく。


「分かってるって恵美(めぐみ)さん。ご馳走様、有り難う」

「いいのいいの、じゃあね」


真っ暗な車内で唇を合わす。
首の後ろに回された細い腕に、そっと手を重ねてあげる。
ぴくん、と恵美の体が震えた。
所詮、女だ。




車から降りて手を振り、恵美が立ち去る後ろ姿を見送る。
角を曲がって恵美の車が見えなくなったのを見計らって、俺は大きく溜息をついた。
真っ赤な外車の助手席は、何度乗っても優越感に浸れるから好き。
恵美は、馬鹿で金持ちだから好き。
26歳にもなって17歳の糞餓鬼に手を出すなんて、頭が空っぽだとしか思えない。
風俗でがっつり稼いでお金なんて有り余っているから、こんな遊びができるんだろうな。




恵美から貰った時計に目をやると、既に針は0時を指そうとしている。


「遅刻すんなとか言うなら、もっと早く解放しろよな…明日1限から小テストあるって言ってんのに」


恵美には家から結構離れたところに車を停めさせるから、そこから歩いて家まで帰ると5分くらいかかる。
親に見付かったら、きっと詰問が待っているからさ。
塾で居残り勉強するから遅くなるって言ってあるのに、派手な女と一緒にいるところなんて見られたら卒倒しちゃうって。
制服の男子高校生がこんな時間にふらふら出歩いているのは補導の元。
高校生の小生意気な女遊びなんて、深夜徘徊の理由になりゃしない。
まして恵美とは金銭授受を伴う不純な間柄。
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