当たらない天気予報


「テスト、面倒臭いな…」


がしがし頭をかくと、恵美の香水の移り香がふわっと鼻をくすぐった。
俺はホテルで恵美がくれた2万円の小遣いを、親から貰った小遣いで買った安財布に入れ直しながら帰路についた。






バスから降りると、既に停留所で翔子(しょうこ)が待っていた。


「孝文、お早う」

「お早う、翔子」


朝から爽やかすぎる翔子の声に、今日の小テストに対する憂いがすうっと引いていく。
勿論、浮かれて覚えた単語を忘れる程迂闊ではない。
それにしても、自分がこんなにも彼女にベタ惚れだなんてね。


「孝文のクラス、今日朝から英単語のテストなんだっけ?」

「うん。あんまり自信ないけど」

「孝文は頭がいいんだから、頑張ってよお」


どん、と俺の背中を小突く翔子。
バス停から学校の校門までは歩いて約3分。
互いの家が離れているため、一緒に登下校することができない俺達は、毎朝学校前のバス停で待ち合わせして教室に向かう。
クラスが違う翔子との、束の間のコミュニケーション。
5月の風が心地好く、俺達の間を吹き抜けていく。


「そうだ、翔子。来週の誕生日…」


下駄箱で靴を履き換えながら、俺は思い出した。


「プレゼントは何がいいか、決まった?」


去年の翔子のプレゼントは、翔子が当時嵌まっていたアイドルグループのコンサートチケットだった。
ペアで買って、二人で見に行ったっけ。
そのグループは半年前に解散してしまって、翔子の中でもすっかりその存在は薄れてしまった。
最近の翔子は特に嵌まっているものもなく、俺としては何をあげていいか皆目見当がつかない。
恵美にべったりの癖に、そういう女心はわかんないんだな。
俺、変だわ。うん。


「孝文ね、私、ティファニーのネックレスが欲しい!」


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