。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅱ・*・。。*・。


すん……


あたしは慌てて鼻をすすった。


涙腺が緩んで、すぐ近くまで涙が迫ってきそうだったから。


そんなあたしに叔父貴は優しく頭を撫で、ちょっと寂しそうに笑った。


「あはっ!子供じゃあるまいし…何センチになってるんだろうね?」


慌てて笑い返して、あたしは立ち上がった。


「父さん、母さん……また来るよ…」


小さく言って、あたしは目を細めて墓石を眺めた。





この下に……雪斗は居ない。





あたしを苦しめたあの悪魔は居ない。


だけど、あたしのせいでこの墓に入ることすらできなかった弟のことを




叔父貴はどう思ってるのかな。





あたしはそっと叔父貴の顔を窺った。


叔父貴は変わったところがなく、柄杓(ひしゃく)で墓石に水をかけている。


あたしも慌ててそれに倣った。


叔父貴は―――



雪斗をどこに捨ててきたのか、あたしには言わなかった。


この事実を知っているのは、叔父貴と…手伝うとしたら鴇田ぐらいだろう。


鴇田が雪斗とどれぐらい親しくしていたのか、なんて知らない。


だけど勘のいいアイツなら気付いてるだろうな……


今となっちゃどーでもいいことだけど…





「地獄に堕ちろ」




あのときは、そう思ったけれど


嘘だよ


嫌な記憶ばかりが甦るけれど、それでも叔父貴と三人で楽しかった思い出もいっぱいある。


あたしはその思い出を忘れることはできない。




立てた線香の煙が昇っていくその先に


雪斗の魂が安らかに眠っていてくれることを





あたしは小さく願い、天を見上げた。






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