軽業師は新撰組隊士!



出会ったというより
女が俺に会いに来た。


「貴方のモノを、返しにきました」


いつかの日に盗られた
脇差しを持って。

スラリ、と刀身を抜くと
綺麗なまま…、いや、むしろ前より綺麗になっていた。


「…使っちゃいましたから、ちゃんと手入れはしました。返すのが遅くなってすみません。ありがとうございました」


そう言って立ち去ろうとする女に、俺は問いかけた。


「もう、使わねえのか?」


女は振り返る。笑顔で。


「使いません。命が大事だから、守るために、刀はもう要りません」


俺は首を傾げる。


「普通は逆だろ?
守るために刀を握るんじゃねえのか。」


俺がそう言うと


「無闇に戦わないために、私は刀を手放します。女ながらに武士を目指しましたが…」


―――守るために、手放さなきゃいけないモノが、あったんです。


「私にはそれが、刀であり戦いでした」


そう言って
女は今度こそ去っていった。




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