夜光虫
 暗い眼をしていると思った。


 闇の底みたいな、冷たくて昏い眼・・・・・・


 見ているものを惹きつけるような、それでいて突き放すような眼をしていると思った。


 真っ直ぐと、反らされることのない瞳。


 その眼を見ているうちに、めまいに似た感覚が美優を包む。



「あんた、息すれば?」


「え?」


「息。止めてるだろ」


 言われて、初めて初めて彼の口許が動いた。

 それは苦笑めいた、からかいの笑みではあったけれど。


「深呼吸して」

 言われるままに深呼吸していると、少しだけ気分が良くなったような気がする。


「ちょっとちょっとちょっと! 椎名さん! イキナリうちの姉ちゃん連れてくって何事よ!」

 降って沸いたような美尋の声に、彼と二人振り返った。

「別にいいだろう。彼女だろ、俺に紹介してくれるって言ってたの」

 瞬きをする美優に彼は眉を上げた。


「まだ自己紹介はしてないけどな」

 そう言って美優を覗き込む彼の視線に、先ほどまでの冷たさはない。

「は、はじめまして。美優です」

 慌てて頭を下げると、彼は掴んだままでいた腕から手を離す。

 決して強い力で掴まれていたわけではないが、無意識に掴まれた腕を庇って一歩離れた。

「どうも。椎名周人です。ま・・・シュウって呼ばれることの方が多いけれど」

 周人と名乗った彼は、確かに浩介よりは年上だろう。

 見た目は若いが、纏う雰囲気が違う。

 決定的に何が違うとは言えないが・・・・


「よっこらしょ。じゃ、花火すっかぁ」

 その呑気な言葉に、美優は乾いた笑いをもらした。
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