AKIRA

 なんだか無性にそのボールを渡したくなくて、俺はボールを掴んだ。でも、服部もなぜか放さない。

「何だよ、俺が拾うって」

 そう言ってはみたものの、服部に引く気配はない。たかがボール、されどボール。こいつにだけは負ける訳にはいかない気がする。

 つか、なんで俺、こんなにムキになってんだか。

「こんな風に取り合って、どっちになびくのかな」

 耳元で、服部がそう言って笑う。

 なんだ、こいつ……取り合うって、晶の事か?!

 だったら尚更、このボールは渡せねぇ!

「放せよ」

「お前こそ放せよ」

「お前こそ……!」

「何やってんだよ」

 横やりに来た寺倉先輩が、俺らの手にあるボールをひょいっと取り上げた。

「そこまで取り合いになるような良いボール?」

 にこやかに、かつ呆れたように寺倉先輩はそう言った。なんか、恥ずかしくなってきたじゃないか。

 でも、ボールはともかく……晶は……俺にとっては良い女だ。

「お~い、アキ! 頑張ってるか~!」

「ちっ」

 ムカつく。

 服部が、俺の横でコロッと態度を変えて晶に向かって手を振ってやがる。

 なんで、俺はお前に、こんなにも近付けないんだよ……昔はもっと……もっと俺たちは近かったはずなのに。



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