Love Box:)
『…いえ。いいんです』
(…きっとあながち間違ってない)
金と権力に釣られた女――そんなんじゃないと、否定したいけど。
間違っては、ない。
だって私は今日こんなにも、今まで知らない井上達矢を見つけたから。
5年間。それなりにちゃんと、わかってるつもりだったのに。
(…影で見てただけで、何も知らなかったんだ、私)
ドクン、――そんなの認めたくないよ――私の胸の奥がそう悲鳴をあげる。
同時に目の前の背中が、遠くて、遠くて…息が苦しくて…。
手を、伸ばしかけた。
(…っさん。井上、さん)
ぎゅっと瞼を精一杯に開き切る。溢れるように湧いた瞳の膜をこぼさないように。
(…っ、)
伸びきらなかった中途半端な指をそのままに、不格好に宙に放り出された左手をキュ、と握って引っ込める。
そして目を見開いて、辛うじて口で息をした。
「――酔い、さめた?」
ニコリ、振り返った微笑みと共にろうそくの橙色がほのかに、甘く揺れた。
ハッ、とした。
そこに在るのは知っている井上達矢。紳士で耽美的で物腰穏やかないつもの彼。
(…造られてたんだ)
私が見ていた先輩は公共用に造られていたソレだったのだと、初めて、気付く。