Love Box:)
「やせ我慢?」
小首を傾げては悪戯な瞳を面白そうに輝かせて、訊いてくる。
(…や、やめ、ろ)
目の遣り場に困る程の、至近距離。
その瞳も、鼻も、口も、どこを見ても心臓が暴れ出す。
視覚も嗅覚も聴覚も、井上さんでいっぱいになってしまうじゃないか。
(…抗え、)
さもなければ、崩れ落ちてしまいそうなこの気持ちを。
このままその胸に飛び込んで泣き出してしまいたいこの想いを。
(…隠せ、抗え、私)
『泣いて、ないですから』
「そう、」
優しい、少し心配そうな瞳で再度小首を傾げて私を見た。
それが嬉しくて、辛くて、泣きそうで。
苦しいけど幸せで、
苦しい――――。
『…っ、あの、』
バサ、その手を振り払って顔を背けては立ち上がる。
スゥ、と最後に空気を吸い込んだけど、僅かだが離れてしまった距離に、あの鮮明な香りはしなかった。
(…いや、だ)
さっきから私の脳が下す命令――帰りなさい。
(…いや、だ)
帰りたくない。帰りたく、ない。
(…来なければ、)
フラッ、と脳裏をかすめたそんな思いにまた泣きそうになった。
そんなわけない。そんなわけ。来なければなんて。なんて私は欲深くて我が儘なんだろう。
井上さんと1日過ごせて、知らなかった彼を知れた。
(…それだけで、十分じゃないか)
何故だが私の脳内に、次に浮かんだのは、見たこともないはずの「みちる」の笑顔だった――。