Love Box:)







(…言わなくちゃ、)



帰ります。その一言が、言えない。違う、言いたくないんだ。

だってそれを言ってしまえば、夢のような今日1日に幕が下ろされる。

そして同時にそれは、この恋の幕引きと同義だ。

二度と、話せないかもしれない。逢えないかもしれない。

いや多分、そうなるだろう。




(…最後に、)



伝え、ようか。

そんな考えがふらり、胸にちらつく。

好きだったと、伝えようか。




「…香?」


顔を背けて立ったまま動かない私を怪訝に思った井上さんが声をかける。

嗚呼、名前を呼ばれることすら奇跡のようで…。こんなに愛しい、のに。




『な、なんでもあり、ません』



(…馬鹿。馬鹿、馬鹿)



答えた途端に何かが決壊して零れてしまう涙。

泣くなんて絶対だめなのに。

それなのに止まらないそれが悔しい。




「なぁ、また泣いてる?」


パッ、と片腕を引かれた。拍子に否が応でも振り向かされる。

右手で覆いきれていない泣き顔は、背後のろうそくに照らされてしまう。




『…ごめ、なさい』

「何で謝るの…?」

『ごめ、なさい、私』

「謝まらなくていいから、な」



(…何で)



何で急に優しいの?

私の両腕をふわり、握って下から宥めるように見上げられた瞳は今までで一番に優しくて、優しくて…

何より初めて、私だけに向けられた井上さんの優しさなんだ。あの井上さんの。大好きな彼の。



(…っ、意味が、わからない)



自分自身が意味不明だ。見上げられたその表情にどうしようもなく愛を感じるなんて…



(…どうかしてる)

(…愛なんてないのに、っ、バカ)







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