Love Box:)
「他人にどう思われたって、普段は全然構わないんだけどな」
彼はクツリ、歪めた口許で苦笑した。
これ以上近くに居たら…。だめかもしれない。私の想いは風船みたいに膨れ上がって、限界が近い。
もう、その胸に飛び込んで抱き締められたい。
馬鹿だ、馬鹿だ。視線に愛を感じたとかそんな下らない妄想をするくらい私は現実が見えない女なのかな。
井上達矢というだけで、私なんか到底相手にされるわけがない。
それに彼には「みちるさん」という強力な想い人がいるのだから。
そう思い直してまた俯いた途端、
私の思い上がった期待に似た何かは、水溜まりに落ちた雫のように、音もなく、溶けた。
『何で、何で私なんかに自身を見て欲しい、なんて思ったんですか?』
少し自嘲も含めて、諦めと共にそう口に出せば案の定、
返されたそれは苦痛。
「香は、みちるにとてもよく似てる」
『…、』
「外見とかじゃなくて、…笑った顔と優しいところ、」
(…っ、)
もう、自嘲する言葉も、見つからない。
「香?」
『…、』
「何でまた泣くんだよ、」
『…、帰り、ます』
――ダン、
あろう事か突き飛ばしてしまった。
(…来るんじゃなかった、来るんじゃなかった、)
この橙色にゆらめく穏やかな室内は一見天国にみえる地獄だ。
井上さんの香りと面影と深い声とが充満して、彼でいっぱいの。
まるで麻薬のように体中を侵略して蝕んでいく。
私を、おかしくさせる部屋。
(…どんどん、嫌な私になる)
理性が崩れ、解き放たれていく感情に抗えなくなっていく。
どんどん、欲深く、嫉妬深く、身分不相応に愛されることを望み、叶わないことに毒づく。
(…今まで、抑えてきたのに、)
(…こんな自分、大嫌い、)