Love Box:)
その表情からは何も読み取れない。
ただ、僅かに寄せられた眉根と、見下ろすその瞳は、言外に私を拒絶しているように思えた。
困っているようにも、悲しそうにも、苛ついているようにも見える。
『…サヨナラ、』
向きを変えてタクシーへと急ぐ拍子、また香ったあの香り。
なんだろう、この香りは。やけに脳裏を擽って、心地良くて、懐かしい。
(…あ、)
春の匂いと若草薫るあの場所と、小鳥の囀りに太陽の光。
井上さんの綺麗な寝顔。
風邪を引くかなと、余計なお世話で近づいてはブランケットをそっ、とかけた。
(…あの時の、香り)
微かだが鮮明な5年前の記憶とその香りがリンクして、じわ、と抑えていた筈の水分は一気に膜を張る。
『…ふ、懐かしい、なァ、』
笑うしか、なかった。
――もう本当に、本当に、お終い。なのだから。