Love Box:)
―――ガチャ、
片手で合図すればすぐに反応したタクシーのドアは開いて、私を待っている。
井上さんもそんな風にすんなり、私の想いを受け入れてくれたらいいのに。
最後にそんな馬鹿みたいに下らない妄想、情けない。
『六本木まで、お願いします』
「はい~、了解」
そもそも現在地がどこか分からないから余計に不安だった。
それでも気の抜けるようなタクシーのおじさんの承諾に、些かほっとする自分がいる。
夜の外気の冷たさも、これに乗れば忽ち消えるだろう。
(…早く、忘れたい)
――パタリ
軽々と閉まった扉に、あぁ、終わりなんだと実感した。
本当に、お終いなんだと。
敢えてマンションの方角は見なかった。
ただ白い布を被った運転席の背中を見て、オレンジ色に染まった静かな夜の道路を視界に入れていた。
「今日は冷えますね~」
『…えぇ、』
沈鬱した穏やかな車内に、唐突に繰り出される運転手さんの言葉。
どんより、したその空間は不思議と妙な安心感と暖かさがあって。
私の大事な「一つ」が終わった、という、その残り粕や余韻が淀んだ濁り水のように停滞したぬるま湯に浸かっているような気さえ、した。