月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
多江さんは少しはにかみながら言った。

「今ね、彼とメールしてたの」

へー、多江さんも彼氏いるんだ。

ま、こんな美人だもの、彼氏ぐらいいるわな。

てか多江さん、さっきから彼氏とメールしてたのね。

…はっ!

もしかしてあたし、多江さんの彼氏との時間を、思い切りジャマしてる!?

いやいや、もしかしてじゃなくて、絶対そうだろう!

あたしはあわてて松葉杖を手に取った。

そしてこの場を去ろうとしたその時。

「あはは、おかしい!」

多江さんの笑い声にあたしは動きを止めた。

「彼ったら、字を間違えてるのよ」

多江さんがあたしを見ながら言った。

「持ってくるを盛ってくるですって」

空中に指先で書いて説明する多江さん。

「変換機能に頼ると駄目ね」

「はぁ…」

そう言うしかない。

あたしは気まずくて仕方なかった。

しかしその後も多江さんはあたしに話し掛け、同時に彼氏とのメールを続けた。

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