君の左のポケットで~Now&Forever~
青い空に、飛行機雲が一本、走っている。

交差するようにして、スズメが南へ飛んでいく。


途中のお花屋さんで、白い花束をふたつ、作ってもらって、

わたしとレンは、電車にのって、あの場所へ向かっている。


白い色は、きっとレンのお母さんの好きだった色。

あの時着ていたカーディガンも、白い色で柔らかかった。


小さなその花束を抱きしめて、わたしは表情のないレンの顔を見上げた。

黙ったまま、電車のつり革にもたれるようにつかまっているレン。

窓の外の景色は、無音のまま後ろに流れていく。



電車を降りて向かう横断歩道。

土曜の昼下がり、ヒトの流れも多かった。

動物園へ向かう親子ずれがほとんどで、小さな子供の手を引く母親が優しい目で歩いている。

子供たちはみんな嬉しそうで、つないだ手をぶんぶんと振ってはしゃいでいる。


レンは、そんな様子を、黙ったまま見ていた。

わたしも、その隣に、黙って寄り添っていた。



横断歩道を渡って、立ち止まる。

傍のガードレールまでゆっくりと歩いたレンは、わたしに振り返り、少し、微笑んだ。

悲しい、笑顔で。


「ナナ、花束、くれる?」

「…はい」


わたしはひとつの花束をレンに差し出す。

それを受け取ったレンは、その場にしゃがみ、地面にそっと花束を沿えた。


道行くヒトが、ちらちらとレンを見ていたけれど、

誰もなにも言わない。

何事もなかったように、ただ通り過ぎていくだけ。


わたしはレンの傍にしゃがみ、その花束を見つめた。

白い小さな花束は、灰色のアスファルトの上で、より一層白く浮かび上がっている。


静かに手をあわせるレン。


そんなレンの静かな横顔を見つめて、寂しそうな影が揺れるレンの頬を見つめて、

わたしも、静かに手をあわせた。





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