誠ノ桜 -桜の下で-


――…


凜は夢を見ていた。


大きな桜に……母に会いに行く夢を。


『凜、おいで』


人間の姿の"桜"はいない。

だが、"桜の木"から母の声がする。

凜が近づくと、桜の木はざわざわと揺れた。


『凜、痛いの?苦しいの?』

『………痛、くない』


夢の中では、体に傷はない。

なのに、本当はすごく痛くて苦しかった。


『……凜は強い子ね』


そう聞こえると、桜の木はピタリと止まる。


『…でも。強がりだわ』

『強、がり……?』


凜は自分より遥かに背の高い桜を見上げた。

立派に咲き誇る姿は、とても美しかった。


『たまには、母様に甘えていいのよ』


ふわり、と風が吹く。

凜は自分が泣いている事に気づいた。


『母様、待ってるわね』

『あ……待って、お母様っ…』


















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