《短編》夏の雪
くるぶしの辺りまで浸かりながら、彩音と一緒に騒ぐ雪ちゃん。
注意してた本人が一番はしゃいでんだから。
次第に陽が落ちてきて、色の変わりゆく水面と雪ちゃんの髪の毛を、あたしと修司くんはずっと眺めていた。
人の目を奪う人。
雪ちゃんにはきっと、そういう魅力があるんだろうと思った。
「なぁ、コンビニ行かん?」
空が群青に染まった頃、修司くんはそう声を掛けてきた。
「俺昼食ってねぇから腹減ったし。あいつらも飲み物とかいるだろ?」
「あたしのも買ってくれんなら付き合ってあげてもいいよ」
「言わなきゃ奢ってやったのにな」
修司くんはやっぱりスカした顔で笑っていた。
でも、どうしてだか、いつの間にかこの人に対する苦手意識は少し消えていて。
あたし達は、未だ海で時間を忘れてはしゃぐふたりを残し、きびすを返す。
5分くらい、無言で並んで歩いた。
ドレッドと制服を着た女子高生のミスマッチさに笑えた。
雪ちゃんの車と同じくらい冷房ガンガンのコンビニで、あたし達は色んなものを買い漁る。
「肉まん食いてぇ」
と、ぼやく修司くんは無視しといて。
「わー、花火あんじゃん! これやろうよ!」
「やりたきゃ自分の金で買え」
「あ、あたしガリガリくん食べたい!」
「食いたきゃ自分の金で買え」
「奢って!」
「帰れ」
気付けばカゴはいっぱいになっていた。
でも、何だかんだ言いながら、修司くんはあたしに財布を出させなかった。
ろくでもないこともない人。