たんすの中の骨1




またひとつ恋をした。

それはまるで夕立のように、私の心に染み込んだ。


「来たよ。イヴ」


アンがささやく。
とたんに私の鼓動は速くなり、手にした文庫本を強く握りしめた。

私たちはそろってセーラー服に身を包み、石のように黙って本を選ぶフリをする。

背中に全神経を集中させながら。


「こんにちは」


背の高い、細身な男性(というよりは少年?)が店の奥に鎮座するおじいさん店長に声をかけた。

彼は私たちの後ろを軽やかに進む。
顔が見えなくても、彼が優しく微笑んでいるのがわかる。


「なおくん!お前さんまだ時間じゃないだろう」

店長は驚きながらも嬉しそうで、それが少し羨ましい。


「いいんですよ。僕暇なんです」


彼は裏口に繋がる扉にかけた従業員用の黒いエプロンを手に取ると、戸をあけて埃を払った。
ささっと身にまとい、そばにいたおばあさんと目が合うと、お運びしますよ、と荷物を出入り口まで運んであげた。


なんて優しいんだろう!


「すてき」

私はうっとりと、ぼろくって狭っくるしい本屋に立ち尽くす。

高校に上がってからの私の放課後はもっぱらここで過ごすことが習慣になった。


「どうだか」


アンは手にした小説を買いに、私を置いて奥のレジに進む。



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