Fahrenheit -華氏- Ⅱ


「ぶ、部長!」


佐々木が顔を青くして、俺を止めるように立ち上がった。


同じようにして瑠華も俺の勢いにびっくりしたように目をまばたいている。


俺は二村の首根っこを掴むと、ぽいっとブースの外に放り出した。


だがしかし、それでも怒りの収まらない俺はスーツの内ポケットに手を入れると、今度は瑠華が驚きの表情を浮かべて、慌てて立ち上がる。


「部長。だめです!」


酷く慌てた様子で、瑠華には珍しく冷静を欠いた、いっそ驚愕と言っていいほどの表情を浮かべ俺の腕を必死に両手で掴む。


こんなときに思わずボディータッチ♪♪


なんて浮かれてる場合じゃねぇな。


俺が何を出そうと思ってるんだよ、瑠華ちゃんは。
(※ちなみにアメリカではスーツの内ポケットに手を入れると、銃を取り出すとみなされます)


俺はポケットの中から一本の筆ペンを取り出した。


以前、従兄妹からもらったものだ。書道家の旦那(正式にはまだだけど)のお勧めらしく、


『あんたはもう少し字を練習して綺麗に書きなさいよぉ』


なんて言ってたっけね。


筆ペンなんて使うことが無かった。この間たまたまメモを取るときに手近にあったのがこれだったから、使ってそのままポケットに入れっぱなしになっていたわけだ。


俺はキャップを外すと、近くにあったコピー用紙をひったくるようにしてデスクの上に置いた。


サラサラサラ…


俺がその筆ペンで書き込む様子を二人が覗き込み、


「出来た!」




“以下の者、この部署に立ち入りを禁ずる。二村 空太。以上”





嬉々として紙を持ち上げると、二人とも苦笑を浮かべながら顔を合わせていた。





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