Fahrenheit -華氏- Ⅱ
俺は二村と、手の中のピンクの腕時計とを見比べる。
瑠華はさりげなく着けてたけど、高いんだろうなぁ、きっと。
フランクミュラーのロングアイランドだから60~100万ってとこかな?
「お前ねだられるような彼女居たの?」
それこそ、泣く女子社員が多そうだ。
「いいえ、キャバクラのおね~さんです♪部長こそ、今持ってる時計って本命の彼女のですかぁ?買ってあげたんですか?」
「いや。自分で買ったんじゃね?」
もしかしてマックスに買ってもらったかもしれないけど、そんなこと考えたくない。
「部長の彼女ってかっこいいんですね♪」
とサラリと二村。顔に貼り付けた笑顔は一寸も狂わない。
まるで仮面のように薄気味悪い…
「キャバクラ、今度部長も一緒に行きます??可愛いんですよ!サキちゃんが♪」
本気とも、社交辞令ともどちらともとれない誘い方だ。
俺はふっと笑った。
「断るよ。キャバクラ遊びは卒業したからな」
本気とも、冗談ともとれる断り口。
そう言い残して今度こそ喫煙ルームを出ようとした。
だがしかし、俺はちょっと後ろを振り返った。
「買ってやれよ。ロングアイランド。“彼女”に」
ふっ、と挑発的に笑って俺は今度こそ喫煙ルームの扉を開けた。