Fahrenheit -華氏- Ⅱ


綾子の簡潔な話に寄ると、瑠華と綾子は二人で昼食を牛丼屋で済ませたらしい。


って言うか何!!その色気のないランチは!


色々突っ込みどころはあったが、いかんせんこちらも時間を押している状況。


余計な質問を極力控えて、綾子が言わんとすることを促した。


綾子の話は―――牛丼を食ったあと、二人は近くの喫煙場でタバコを吹かせていたらしい。まぁ?愛煙家なら食後の一服ほどうまいものはないからな、気持ちは分かるが。




『柏木さん、そのとき様子が変だったの。


吸ってたタバコを―――……』




綾子は言葉を濁したが、やがて重大な何かを告白するように大きく息を吸って言葉を紡ぎ出した。


綾子の言葉を聞いて、俺の手からケータイがすり抜けそうになった。元々緊張していたのはある。汗で手が滑った、と。目の前で不安そうにしている裕二に言い訳を取り繕うことなんて簡単だ。


だが、俺の言葉は思った以上に震えていた。


「―――で…?瑠華は……?」


『大丈夫よ。火傷の一つも負ってないわ。私が止めたから。強引にタバコを奪ったの』


綾子の言葉に俺の腰から力が抜けて行くのが分かった。腰が抜ける、ってこのことを言うのだろうか。


力なく近くのソファの背もたれに腰を落とすと、目の前で裕二が益々不安そうに俺の方を見る。


「大丈夫だ。綾子には計画がバレてねぇ」何とか口パクで伝えると、ニュアンスでそれが伝わったのかどうか裕二も同じように額に手を置き太いため息をついた。


『その後、彼女は胃痛だとか言って薬飲んでたけど、


ねぇ、あの薬、本当に胃薬なの?』


綾子が思いっきり不審そうに俺の意見を仰ぐ。


「瑠華がそう言うのならそうなんじゃね?俺も詳しくは知らない」


そう返すのが一番妥当だと思われた。二人に瑠華の病気を隠す隠さない、と言う取り決めは俺たちの中で話し合われたわけじゃない。


だけど、知られていいことなんて何一つないのは分かり切っている。




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