Fahrenheit -華氏- Ⅱ
いや、実際遅れていたのは数秒なんかじゃなく、数日間…もっといやぁ数か月かもしれない。
俺はこの女の力量を見誤ってたのかもしれない。
きっと裕二も―――
―――瑠華でさえも。
その遅れていた『時間』分だけ、『想い』が膨れ上がったんだ。
もっと早くに対処すべきだった、と気づいたが
―――遅かった。
だが、「遅かった」と一言で終わらせるつもりはない。
瑠華を巻き込んでまでの大勝負、大芝居なんだからな。負けてられないっつうの!
「あのさぁ、何をどう勘違いしてるのか分かんねぇけど、俺とこいつが付き合ってるのは事実だし。
横入りしたのはオタクの方でしょ?
確かにヤったのは裕二の落ち度だけど、酔っぱらってたワケだし。そんなんカウントされねぇだろ」
ぞんざいに言って肩を竦める俺。必死に“余裕”と言うものを漂わせているつもりだが……
「そんなの信じない!」
と、女の一点張り。
思い込みの激しい女ほど怖いものは無い、とこのとき気づいた。
「ねぇ裕二。あたしのどこがいけないの?何が不満?
こんな“悪ふざけ”してまであたしと距離を置きたい“理由”を教えてよ」
女が裕二の足元へ素早くしゃがみ込み、裕二はその女から言葉通り逃げるようにソファを這いずり俺の元へと逃げてきた。
「だから……行ったろ?俺、ホントはゲイだって……
本命はこいつ。あのとき寝たのはほんの気まぐれだって……」
半分嘘で、後半部分は真実だ。
それでも女は諦めようとしない。
まぁ?ストーカーするぐらいだしな。並大抵の神経の持ち主だとは思わなかったが、こうまで思い込みが激しいと、どうすればいいのか分からない。
もういっそのこと何もかもぶちまけてしまった方がいいんじゃね?とさえ思ってたが、
「頼む!!啓人!!」
と裕二が真剣な目で訴えてくる。
そうまでして守りたいのかね
あのオトコ女を―――
まぁ
でも、俺が裕二の立場だったら同じことをするに違いない。
怒りの矛先が『俺』に向いている今はまだいい。
だがそれが最愛の人に向けられたら―――……
俺は今も尚抱えている問題、真咲のことをちらりと思い出した。