Fahrenheit -華氏- Ⅱ
俺のテーブル叩きと言うのは勝手で完全なるアドリブ。
『お、おい!台本にない台詞だぞ!』裕二のビビった視線がそう語っていた。
『うるせぇ!つべこべ言わず付き合えってんだ!』と、こちらもこんな役やらされて不本意中の不本意だからな。不機嫌も重なって、随分迫力のある凄みに見えたようだ。
女が俺の怒声に肩を大きく揺らし、裕二に助けを求めるようにヤツを見上げる。
「ま、まぁ落ち着けよ……」
裕二が恐る恐る…と言った感じで、俺の両肩に手を置く。
ゾワワ!
瞬間、鳥肌が全身を駆け抜けたが。必死にそれを押し隠し、俺はまだ怒りを抑えられない『裕二の恋人』役に徹する。
「ちゃんとお前の口から説明しろよ?俺たちがどうゆう関係なのか!」
俺の怒鳴り声を聞いて、女が目を開いて俺と裕二の間を行ったり来たりさせている。
良し!王手だ!!
俺はほとんど“勝利”を確信していた。
「こいつは……お、俺の……単なるダチじゃなくて……そ、その…
“彼氏”!!」
最後の方は半ばヤケクソとばかり裕二が叫ぶ。
「え……彼氏………?」
たっぷり間を置いて女が、俺と裕二の間でまたも視線を行ったり来たり。
「そ♪俺たち付き合って二年のラブラブカップル❤
だって言うのに!!こいつが何を思ってか女と浮気なんかしやがって!」
ボキボキと指の関節を鳴らすと、女ではなく裕二の方が震えあがった。
マジで一発ぶん殴ってやりたい気分だったから、この関節鳴らしはリアルだ。
けれど
「嘘……」
そう、嘘だって言ってほしいのは俺本人。
「嘘よ!
だって裕二、あたしと寝たもん!!
ゲイの人って女はダメなんでしょ!?あたしを騙して追い払おうったって、そうはいかないわよ!!」
女が突如立ち上がり、そのときにテーブルに足をぶつけたのだろう。カップの中で琥珀色のコーヒーがゆらりと揺れて、カップもぐらりと傾く。
ガシャンっ!!
派手な音が聞こえてきて、それがフローリングにカップが落下したと気づいたのは
数秒遅れだった。