Fahrenheit -華氏- Ⅱ
それからなるべく明るい話題にしようと、あたしはいつになくよく喋った―――気がした(やっぱり自信ない。いつも聞き役だったから)
それでも緑川さんは楽しそうにしてくれていて、ちょっとほっとする。
「何かぁ部長が柏木補佐を好きっての改めて分かった気がする」
緑川さんがちょっと顏を上げ明るく笑った。
「…え?どのポイントでそう思ったのですか」
実の所あたし自身、未だによく分からない。こんな可愛げのない女で、しかも厄介な過去が付きまとっているあたしのこと啓はどこを好いてくれているのか。
あ、でも最初は顏だって言ってたっけね。
「柏木補佐って、何でも濁さずズバっと言ってくれるじゃないですか」
「それは……ニューヨーク生活が長かったせいで。あちらは謙遜とか謙虚とか無いですし」
「そうなんですか~、でももっと笑った方がいいですよ?外国の人って表情豊かじゃないですか。大げさぐらいに」
「そこは…半分日本人なので」と言うと
「いや、まんま日本人じゃないですか」と緑川さんは笑いながら突っ込む。
確かに私のパパもママも日本人だから、生粋の(?使い方合ってるかしら)日本人ですけど。
向こうでは日系アメリカ人と言われていた。
日本人でもない、アメリカ人でもない。どちらでもないあたしが、こんなあたしを生み出したのだろうか。
いいえ、人種の問題じゃない。あたしがこうなったのは―――
マックス―――……
いいえ、今は考えたくない。
「ハロウィンパーティー楽しみですね」あたしは話題を変えると
「はい!♪今から何のコスプレしようか悩み中で。柏木補佐は?」
「私は普通のロングドレスです。殺人鬼設定なので」
「殺人鬼!」緑川さんは何がおかしいのかキャハハと明るく笑い、「柏木補佐らしい」と言い、その後パーティーの想像話で盛り上がって(一方的に緑川さんが)カップの中の飲み物が空になった頃、どちらからともなく
「帰りましょうか」となった。
行き来たようにタクシーで帰ろうとして、ちょっと考え直した。
「私、会社に忘れ物をしたようです。一度、社に戻りますので緑川さんはそのままご自宅に帰ってください」と言い、タクシー代として1万円を差し出すと
「え!?」と緑川さんは驚いた様子。
「いえ!ここまでいただません、あたしが一方的に呼び出して話聞いてもらったうえ、グロスとクリームも貰ったので」
慌てて手を振り万札をこちらに戻した緑川さんに、あたしは笑いかけた。
「まだ夜更けと言う時間帯ではありませんが、若い女の子がこの裏通りを歩くのはよくありません。タクシーを呼んでください」と言うと、緑川さんは泣きそうになりながら万札をきゅっと握り、しかし今度はどうやら悲しいから、と言う感情ではなく、
「気を使ってくれてありがとうございます」と、嬉しそうだった。
それがせめてもの救いだ。
携帯でタクシーを呼び、緑川さんを一人乗せ、あたしは店に残ったままもう一杯コーヒーを頼んだ。
特別に美味しかったわけではない。ただ、コーヒー一杯で長々と居座るのが申し訳ない気がしたから。
バッグから携帯を取り出し、すぐに会社の……外資物流管理の直通ナンバーに電話をした。