Fahrenheit -華氏- Ⅱ


昨日、広尾で別れたときは普通っぽかったけど、やっぱ三人での飲み会はしんどかったのかな…


と、ブツブツ心の中で考えていると


『すみません、大した用じゃないのですが』


「うんうん、大した用じゃなくても全然OKだよ」


俺は大げさなぐらい大きく頷いた。


やがて瑠華は






『あの―――………


突然、啓の声が聞きたくなって……』




啓の声が聞きたくなって…


聞きたくなって



聞きたくなって――――

(注:エコーでお聞きください)




何て素晴らしい朝!!


いや、まだ夜明け前だ、朝と言うのにはいささか早過ぎるが。


しかし、相変わらずのツンデレだな。てかこれをツンデレと言うのか??疑問が浮かんだが、この際どーだっていい。


「どうした?怖い夢でも見た?」


俺が軽く笑うと(瑠華に限って怖い夢で怯えてるとか考えられないケド)






しかし予想に反して


『ええ…』


と小さく返答があった。


怖い夢で怯えている瑠華……それもちょっと可愛いな…俺が隣に居れば抱きしめたのに。


何て思ったけど…




もしかして―――あの赤ん坊の手が瑠華の夢にも現れた…?





俺の額に嫌な汗が浮かんだ。


「……どんな夢?」思わず身構えて聞いた。


『そうですね…敢えて言うならば映画の“シックスセンス”的な…?』


その返答にちょっとほっとした。


「”シックスセンス”かぁ、あれは怖いって言うより、最後のどんでん返しが面白いっ…」


って、俺朝から何、映画評論会してんの!愛しの恋人と!


『嘘です』


電話の向こうで瑠華がクスクス笑う声が聞こえてきた。


嘘?


『キャスパー的な?』


「何だヨ、それ可愛いじゃんかYO!」


寝起きだからか?変なテンションで答えると


またもくすくす瑠華が笑う声が聞こえてきて


『あたし、まだ“ダーク・シャドウ”見てないんです。今度付き合ってください』


「てかあれもホラーとは程遠いじゃん?まぁ女優のエバ・グリーンは美人だったけどな」


と言ってまたもはっ!となった。俺、瑠華と話してる時いっつも女の話ばっか!


『確かに美しい人ですね』と瑠華は小鳥のように笑う。


確かあれは……ジョニー・デップがヴァンパイア役で主役だった気が…


ジョニー・デップと言えばあれだよな『パイレーツ・オブ・カリビアン』


そこで共演してたのがオーランド・ブルーム


オーランドと言えばマックス


嗚呼……俺…朝から撃沈。


一人連想ゲームをしていたが


『何を考えているのか大体察しましたが、今日も宜しくお願い致します。夜分遅く…と言うか早朝に失礼いたしました』


と丁寧過ぎる口調で言って、通話は一方的に切られた。


あ…


やっぱあのひと、デレないわ。


と思った朝だった。



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