Fahrenheit -華氏- Ⅱ
20時を少し過ぎた辺りで、俺の仕事用の電話に着信があった。菅井さんからだ。
菅井さんは用件を済ませて、すでに西麻布にあるバーに居るとのこと。
店の名前と大体の所在地だけを聞いてすぐ向かう旨を伝えて、俺もPCの電源を切った。
携帯と社員証は持ったし、財布も鞄の中にある。忘れ物はないよな…と言う意味でデスクの辺りを見回すと、瑠華のデスクの右側の小さな引き出しがちょっとだけ開いていた。
あの几帳面な瑠華には珍しいことだったが、考えたら心音ちゃんのことを気にして慌てて出て言ったわけだし、心ここにあらずだったんだろうな、見落としちまったんだな~
閉めておくか。と軽い気持ちで近づいた。
引き出しに手を掛けてほんの少し押し込むだけの動作だが、そのときにちらりと見えた。USBメモリを。会社から支給されてる黒やグレー、白といったメモリじゃなく、それはまるで血を思わせるような鮮やかな赤色をしていた。
いや、光の加減か?違う角度で見ると鮮やかなベリー色にも見える。
一瞬不思議に思ったが、まぁ規定のものを使わなければならないルールはない。データ容量とか考慮して瑠華が自分のを持ってきたんだろう。
「いけね!早く行かなきゃ!」
パタン
引き出しを閉め、俺は慌ててブースを飛び出した。