Fahrenheit -華氏- Ⅱ


「見舞い……と言うと…そんなに悪い状況なんですか……もしかして入院…?」


出されたビールのグラスに手を伸ばそうとしていたが、その手も止まった程、動揺した。


真咲……最後に会ったのはいつだったか…


細かい日付が思い出せないぐらい、その間に俺自身色々あったから、最後に会ったときの様子を俺は思い出すことができなかった。


確かに元気いっぱい!!って感じではなさそうだったが…


「入院はしていません。ただ……心の方が……」


菅井さんは言いにくそうにして、グラスを手にして、しかしそれに口を付けるわけでもなくゆらゆらと揺らしているだけだ。




「心……?」





あいつが……真咲が……


瑠華と同じ類の病気………?


にわかに信じられなかった。確かに少し攻撃的なところとか、ほんの少しだけど瑠華に似ている部分はあるが……だけど、計画的に俺を脅して、強引に契約を取ろうとした図太い女だ。


だが、瑠華だって本人の口から言われなきゃ普通……と言うか普通以上に仕事ができるし。見た目だけでは判断できない。その背後に何を背負っているのか、なんて親しくなければ分からない。


俺は目を開いたまま額に手を当て


「……あの……何て言えばいいのか……」


必死になって言葉を探して、やがて出てきた言葉は


「そちらの方面に知人が通っている病院があるので、もし宜しければ……紹介状を…」


と言う当たり障りのないものになった。“知人”と言うのはもちろん瑠華のことだけど、ここで瑠華の名前を出すわけにはいかない。


「そうですか……ご友人の方は出産の方で?それとも不妊治療……ですか?」


と、菅井さんが遠慮がちに聞いてきて





「――――………は?」



俺は自分を取り繕うことも出来ず、間抜けに聞いた。




「え………?」




菅井さんも俺と同様に動揺(←ギャグ?)した様子で互いに顏を見合わせて、やがて彼の目が大きく見開かれた。お互いの考えていたことが噛み合っていないことは確実だ。




「もしかして……真咲から何も聞いて……いないんですか……?」

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