Fahrenheit -華氏- Ⅱ
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あの時の台詞をあたしはまた繰り返したのだ。
いつの間にかキッチンカウンターの向こう側に回っていた心音は、カウンターの上に乗せたシャンパンボトルの栓を器用に抜き
「夏が終わると、寒い冬が訪れる」
当たり前のことだけど、心音の発言には深い意味があると分かった。
そう
熱い夏がやってきたあと訪れるのは、心さえ凍るような寒い季節がやってくるのだ。
「Be careful not to freeze.(凍えないように気を付けて)」
心音はグラスに口を付け、意味深に目を細めた。
「I know that.(充分に分かっているわ)」
あたしはカーテンを握りしめた。ひやりとした風が頬を撫でて行き、いい加減ディヒューザーの匂いも薄れてきたことだし、と言う意味で窓を閉めきっちりとカーテンを閉めた。
この後に待っているのが、どうか
心も凍るような寒い季節でないことを願った。
「でも、冬は楽しい行事が多いわよね。クリスマスでしょ?ニューイヤーパーティー。
二人でお酒でも飲んで、大いに笑って、温もりを確認するように手を繋ぎ合って
暖め合える
そんな関係が続くといいわね」
心音は笑った。
そうね。冬は楽しい行事がたくさんある。クリスマスにはお料理上手な啓にお願いして、ターキーを焼いてもらって、シャンパンで乾杯。プレゼントを交換して、その後のイベントはカウントダウン。二人で新しい年の迎えをして、秒数を数える。0時を過ぎたら、ワインで乾杯。
二人して「今年も宜しく」と言って笑い合うの。
その一つ一つ、啓と一緒に楽しんで、一つ一つ新しい想い出にするの。
想像すると楽しいけれど、でも―――
それが儚い夢だったと気づくのは、
そう近くない未来。
あたしはまだ気づいていなかった。
啓の元恋人の真咲さんよりも、もっともっと脅威的で残忍な悪魔があたしたちのすぐ近くで潜んでいたことを。
その悪魔が牙を剥く。それが遠い未来でないことを―――