Fahrenheit -華氏- Ⅱ

やり口は汚いが、そうでもしなきゃ今後の自分の立ち位置を確保できないって思えば、俺を利用したくなる気も分かる。それに俺と真咲の間には(瑠華には話していないが)俺を利用してまで伸し上がりたい程のかなり根深い確執がある。尚更だ。


今は女性の社会進出が伸びている、と言えどそれはごく一部のことで


まだまだ女は社会では生きにくいものなんだ。


改めてそう感じさせられた。


「真咲のやつ、なんか、出血があったみたいで本人の精神が安定してないみたいで、今会社を休んでるって言ってた」


『そうですか……稀にあることみたいですね。あたしは大丈夫でしたが。でも精神面で不安定になることはよくあることです。今は安静にすべきですね』


「そうだよなー、と言う分けであいつは今休職中だって」


『そうですか』と静かな返事があり『そうでしたか…』とまた繰り返された。


「ま、医者が言うには大丈夫らしいから、気にすることでもないらしい」と付け加えると瑠華はちょっとほっとしたようだった。


移動中だったのか、静かな背後に瑠華の足音だけが聞こえ、途中


『痛っ…』と瑠華が小さく声を発した。


「どうした!」思わず勢い込むと


『すみません、さっき割ってしまったディフューザーの欠片を掃除しきれてなかったみたいで』


ディフューザー??


「ああ、あの匂いのあるやつ?瓶に入った?確かちっちゃな貝殻が入ってたよね」覚えている。だって俺と一緒にデートの時に買ったものだったから。ホントは俺が買ってあげたかったのに、瑠華はそれほど高価なものじゃないから、と言う理由で財布を仕舞わなかった。


って言うか瑠華は基本、俺の財布を頼らない。昔の……関係があった軽い女たちは俺が払うのが当然だと思ってバッグから財布すら取り出す気配を見せたことないって言うのに。


まぁ?それに慣れてたから、瑠華があまり俺に出させないところが新鮮でもあり、同時に少し寂しくもあるが。何て言うの?俺って甲斐性なし??


だけど俺の考えてることも瑠華サンは華麗にスルー。


『誤って割っちゃって』と繰り返した。


「そうなの?怪我は?」すかさず聞くと、





『大丈夫です。バカな真似もしていません。


ちょっとした事故です』




瑠華はバカな真似―――と言ったけれど、それは決してバカな行為じゃなくて、本人じゃどうしても止められない衝動なのだ。


どうして傷つけるの?と言う問いかけや、その行為に対する怒りを露わにすることは良くない。


精神疾患の本に書いてあった。まずは―――




本人の感情を受け止める。




それが大事なんだ

とか。




< 715 / 735 >

この作品をシェア

pagetop