Fahrenheit -華氏- Ⅱ

単純に仕事が好き、と言う人も居れば、働かなきゃ食っていけない、と言う人も居る。


事情は様々だし、それまで積み上げてきたキャリアや、それなりにプライドだってあるだろう。それを子供を産んだから、結婚したから、と言って簡単に取りあげていいものではない。


もっともっと…そう言った意味での男女間での差別が無くなればいいと思うのは俺だけ?


いや、今まで……厳密に言うと瑠華と出会う前まではそんなことまるっきり考えてなかった。疑問にさえ思ってなかった。会社の女の子…まぁうちは一般職がほとんどで、総合職と言える地位に就いているのは瑠華と、内藤チーフと綾子(←あいつ考えたら何気にすげぇな)ぐらいなもんで


一般職に就いてる女の子は当然ながら結婚したり子供を産んだりしたら当たり前のように退職していく。それに疑問を抱かなかったし、むしろ「おめでとう」と言って当たり前のように送り出してきた。


でも中にはきっと望んで一般職になったと言うわけではない人も居るだろうし、真咲のように復職を願っていた女性だって居ただろう。


あー…考えたらダメだ。深みにハマりそう。


はぁ


またぞろため息が出て


ドサッ


俺は携帯を耳にしながらソファにダイブ。


見た目に寄らずザルな菅井さんにつられて結構飲んだからな……ちょっと…眠い。


シャワー浴びるの面倒くせぇ。でも、浴びなきゃ……と思いつつも瞼が沈んでいく。瑠華の声が子守歌のように心地いい。


けれど視界が暗くなった頃、暗い筈の視界に浮かび上がるのは


真咲の姿で。


菅井さんはああ言ったけど『小さな嫌がらせですよ。気にしない方がいいです』とも言ってくれたけど


でも


根本的な何かが解決しなきゃ意味がない。


でも根本的な何かって、法律を変えるってことだろ?確か……「雇用機会均等法」が出来たのは1986年だ。それから三十年近く経ってるってのに、現状はあまり変わっていない。


国が決めた法律ですら、社会で適用されないのに、


俺にはもっとできねーよ……


何て…考えたところでどうにもできないし…


そもそも愛する人と電話をしてるのに、法律や国の体制を考えるのは勿体ない。


と言うわけで、俺は報告も早々に


「じゃぁまた今度ディフューザー買いに行こうね♪」と言って会話を切り上げ、通話を切ろうとした。








『啓』





思いのほか良く透る声で呼ばれて、俺は離しかけていた携帯をまた耳に近づけた。





『あたしは―――あなたに出逢えて良かった。あたなたと出逢えて




幸せです』





へっ――――――!!!!?



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