Fahrenheit -華氏- Ⅱ
勢いが付き過ぎて思わずエレベーターの壁に手をつく形になった。腕の中には小柄な瑞野さんがすっぽりと収まっている。
これって所謂壁ドンて言うヤツ??
なんて冷静に判断している場合じゃない。
俺の腕のなか驚いたのか顔を上げた瑞野さんの頬にはやっぱり涙が一粒流れていた。
「平気なフリするなよ」
俺は眉を下げて思わずそう声を掛けていた。
瑞野さんが戸惑ったように眉を寄せ、そこでようやく自分が泣いていたことに気付いたのか目元をぐいと乱暴に拭いながら
「大丈夫です。ご迷惑をお掛けしてすみません」と謝ってきた。
「だから、迷惑なんて思ってねぇから。あいつ…親父…って言うか会長?あいつはああゆう性格だけど次の日には何事もなかったかのように戻ってるから、気にするなよ」
何の慰めにもならないだろうけど、何とか声を掛けると
涙を止めるどころか、
「すみませ……」瑞野さんは再び目がしらを押さえて涙を流した。「そんな風に優しくされると……」
こういうの地雷って言うの??
なんて考えていると
降下していたエレベーターはポーンと言う音を立てて止まり扉が開いた。どうやら下に降りる誰かがこのエレベーターを呼んだに違いないが。
急なことで壁に手をついたまま、体を戻すことを忘れて顔だけを振り向かせると
扉が開いて、そこに立っていたのは
二村―――
思わず目を開くと、二村も目を開いていて、
見ようによっちゃ俺が瑞野さんを泣かせているように見える光景の俺らを見て二村が勢い込んでエレベーターの箱に入ってきた。