Fahrenheit -華氏- Ⅱ
何っで!!!この俺が悪者!!瑞野さんを心配しただけなのに!
苛立ったままフロアに戻ろうとしていると
「…部長」
二村がおずおずと声を掛けてきた。
「何だよ!」不機嫌を隠すことなく二村を睨むと
「すみませんでした…」としおらしく謝ってきたが、生憎だがそこで許せる程俺は寛大ではない。
「俺に喧嘩を吹っかけるならいい。いつでも受けて立つ。
だけどな柏木さ…いや、女に手をあげるヤツは最低だ。お前がやったことは最低なことなんだ。覚えておけ」
二村を指さし、俺は苛立ちの現れか速足でブースに戻った。二村は―――その場で立ちすくんでいた。
「部長…遅かったですね…」と佐々木に声を掛けられたが、俺はそれに何も答える気になれず、ドサリと椅子に腰を下ろした。佐々木の方も俺の形相に少しぎょっとしたようでそれ以降深く突っ込んではこなかった。
それから30分程苛々した面持ちで仕事をしたが怒りは早々鎮まることもなく仕事も思った以上に進まない。
そんなときだった。
俺のデスクに内線電話が掛かってきた。
317と言う見慣れない番号。
誰だぁ?と言う思いで電話を受け取ると
『お疲れ様です、柏木です。今“喫茶ラウル”に居るのですが、少し出てこれますか』との言葉に俺は慌てた。
喫茶ラウル………ああ!そう言えば社食の更に奥に小さな喫茶店があった。もちろん会社内の喫茶店で昼食後の社員が、コーヒーを飲みに行くのが意外に多い。俺は会議室が開いてなくて仕方なく一回こっきりそこで商談をした思いがある。
「うん、いいよ!」俺は二つ返事でオッケー。やりかけの仕事だってどうせ手につかない状態たったし、何よりあの後瑞野さんの様子が気になっていた。
「佐々木、悪い、少し席を外す。何かあったら携帯に連絡くれ」と言うと、さっきからやたらと変わる俺の態度に佐々木はついてこれないのか、あたふたたと頷いた。