Fahrenheit -華氏- Ⅱ
と、まぁそうこうしているうちに12時を回ったのだろう、違う部署のおっさん二人組の社員がこの喫茶ラウルに入ってきた。そして俺の考えは断ち切られた。
「いらっしゃいませ~」
店員の声に「おばちゃん、日替わりランチ二つ~」と答えながら彼らは何となく、俺らと一番離れた席へと落ち着いた。見知らぬ社員たちであっちも俺たちのことを知らないのだろう。大した興味もなさそうで、世間話をしながらお冷とおしぼりを勝手に取り出している。
喫茶ラウルでは軽食はもちろん、ランチ時に合わせたちょっとした定食もある。社食より少しだけ値が高いがこっちの方が断然旨いと言う噂も聞いたことがある。
「時間も時間だし、このまま二人で休憩入ろっか」と提案すると
「佐々木さん一人残してきて大丈夫ですか?」と瑠華が心配そうに上目で俺を見る。
「大丈夫、大丈夫。何かあったら携帯に電話しろって言ってあるから」
何より!勤務中、瑠華とランチを摂れるのなんて滅多にないからな!(て言うかはじめて)
瑠華は俺の提案に断ることもせず、「ではこのまま入らせていただきます」と素直に頷いてくれた。
ヤッタぜ!
開店当初から変わったことがないのだろう、年期の入ったメニュー表には意外に種類が多くメニューが掲載させていた。
瑠華はスパゲティナポリタンを、俺はハンバーグランチを頼んだ。
料理が運ばれてくるまで
「そう言えば、小野田専務どうだった?怒ってなかった?」とふと気になったことを聞いてみた。
「いえ、大丈夫です。元々リゾート案件は取り扱いが難しいので、そう言うことも想定内だったと」
「そっか…流石向こうは慣れてるね。でも安心して?稟議書は今日会長室に持って行ったから」
そう言うと、瑠華はパっと顔を上げた。
「後は会長の決済が下りるのを待つだけ、ってことになるね。時間が無いから『至急案件』て言うハンコも押しておいてから」と言うと、瑠華はふっと涼しく笑った。
涼しく……と言うよりも、いっそ妖しく見えたのは気のせいだろうか…
「柏木さん―――……?」
何を考えているのか気になって思わず彼女を名前を呼んだが
「お待たせ致しました。ナポリタンと、ハンバーグ定食ね」と店員のおばちゃんが料理を運んできて
昔懐かしの鉄板に乗ったケチャップ味のナポリタンから湯気があがっているのを見つめながら
「美味しそうですね」と、瑠華の言葉に俺は結局それ以上突っ込めなかった。