Fahrenheit -華氏- Ⅱ

そう言うわけで綾子は少しだけ雑談をして帰っていった。


瑠華に礼を言いに来た感じではあったが、綾子も瑞野さんのことが心配だったのだろう。


それから30分後佐々木が休憩から戻ってきて、デスクに置いたプライベート用の携帯がメールの報せを点滅させていて開くと相手は菅井さんだった。


メールを見るついでに一服でもしようかと思い携帯を持って喫煙ルームに移動をする。


昨日の今日で菅井さんは律儀に『昨夜は御馳走様でした、楽しかったです』と送ってきた。そしてその内容の下に真咲の具合についての報告がされていた。


菅井さんの話によると真咲の中で育っている赤ん坊は無事命を取り留めたようで、きちんと心音を確認することができたらしい。


そのことにほっと安堵した。それと同時に口からタバコの煙が出た。


そのときだった。


コンコン…


控えめにガラスの扉をノックする音が聞こえて顔を上げると、ガラス扉の向こう側で瑠華が周りを気にするようにキョロキョロとしていて、こちらを覗き込んでいる。


「どうした?」


俺が自ら扉を開けて瑠華を招き入れると


「お取込み中すみません」と瑠華が小さく頭を下げて、でも上げた瞬間僅かに表情が曇っていた。俺は携帯を開いたままで…


「あ…!や!!相手は菅井さんでっ!!」と慌てて携帯の画面を見せるも、瑠華は曇っていた表情を“怪訝”に変えて眉間に皺を寄せる。


「私が疑っている、とおっしゃりたいのですか」と瑠華は不機嫌そうに腕を組み、低く問いかけられ


え!違うの!?


と、急にあせあせ。


「はぁ」


瑠華は小さく吐息をつくと


「私はそこまで束縛しませんし、したいと思ったこともありません。あなたの行動を疑ったことはただの一度だけ。あなたの携帯の中に真咲さんの名前を見つけたとき。


でもその誤解も解けましたし、何より私はあなたに言いました。


あなたを―――」





「信じる、


だろ?」




今度は俺が眉を下げる番。そう言ってくれて嬉しかったし、ほっとしたのもある。


けれど、もうちょっと……自分勝手かもしれないけど、気に掛けて欲しいと言うか…


女心もフクザツだけど、男だって複雑だ。と言うことに今気づいた。



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