Fahrenheit -華氏- Ⅱ
今度こそはっきりと嫌な顔されるかと思ったが、瑠華はちょっと驚いたように目をまばたいただけで機嫌を悪くした様子はなかった。
「あのさ……その薬って、本人じゃないともらえないの?」
「いえ、委任状があれば他の人でも大丈夫ですが」瑠華が俺の言おうとしていることに理解を示していないのか、不思議そうに首を傾げる。
「じゃさ、俺が貰ってくるよ。ちょうど午後外回りのアポが入ってたし。ついでと言っちゃなんだけど」
「え」
瑠華がちょっと驚いたように声を上げ、その声が思いのほか大きかったことにすぐに気づいたのか慌てて両手で口元を覆う。
「でもさすがに……そこまでご迷惑を…」と言いかけた言葉を
俺は彼女の口元にそっと人差し指を当て遮った。
「迷惑なんかじゃないし。俺がそうしたいの。と言うか瑠華……じゃなくて、“柏木さん”が抜けられるとこっちも困るからサ」
ちょっと微笑んで言うと、瑠華が何か言いたそうに口を開いたが、結局次の言葉は口に出ることがなかった。
代わりと言っちゃなんだが、前触れもなく瑠華は俺に近づき、ふわりと彼女の髪からみずみずしい花の香りが香ってきた、とゆっくり感じ取るよりも早く、流れるように俺の両頬にキスが降る。
それは瑠華と心音ちゃんが交わしてるのと同じもので―――
でも、俺にはただの『挨拶』なんて思わなかった。
「ありがとうございます」
と控えめに言って、微笑んだ。
「…………」
「な……何か言ってください」
と、キスを仕掛けた瑠華の方が恥ずかしかったのかその白い頬を僅かにピンク色にさせ、そう言われてはっ!となった。
あまりに突然の出来事で一瞬トリップしちまったぜ!
てか、何その反応!!アナタ可愛過ぎだっつうの!!