Fahrenheit -華氏- Ⅱ


シロアリは数日前にこいつのマンションで会ったときよりも顔色が悪い気がするし、足取がおぼつかない。


心ここにあらず、と言う感じだ。まぁ??こいつが心ここにあらず、なのは今に始まったことじゃないけど。


「お疲れさん」俺が声を掛けると、下を向いていた緑川がのろりと顏を上げ、俺だと気づくと慌てて「お疲れ様です」と言って頭を下げる。


「てかお前、大丈夫かよ。こないだより具合悪そうじゃん?ちゃんと病院行ったか?」


と、この頃すっかりよそ行きモードから本来の“俺”モード全開にストレートに緑川に聞くと


「……は…はい…」と蚊の鳴くような小さな返事が帰ってきて。


例の子宮筋腫と言う病気が悪化したのだろうか…いや、瑠華の説明では今はそれ程重要視する問題じゃないと言っていたが。


しかし………この反応…


「もしかしてお前……いや、お前に限ってそれは無いと思うけど……」


俺が真剣なまなざしで緑川を見据えると、緑川はあからさまに身構えるようにビクリと肩を揺らした。





「今流行りの………うつ病……ってヤツ?」





俺が眉を寄せて聞くと


「え!?」と緑川はこっちがびっくりする程、きょとんと目をまばたき。


え?


どうやら、違う??


「いや……俺の思い過ごし?ほら、村木ンとこに居ると色々ストレスだろ。またあいつに苛められてんのかなーとか思って」


実際、あいつの下で働いていた社員が数人辞めているのは事実だ。理由は不明だが。噂話に寄るとほとんどが村木が圧を掛けて辞めさせたとか何とか。ま、早い話パワハラだよな。


「いえ!違います!!あの……ホントに最近あたし……村木部長と関わり無いので」


「ま、関わらない方が良いよな~、あいつ疫病神だからサ」俺はことさら何でもないように言って肩を竦めた。


「最近は内藤チーフがあたしに仕事教えてくれるんです。内藤チーフは優しくて、歳も離れてるから変にやっかみとかないし、ちょっと楽です」まぁ、歳の近い瑠華が上司だった頃こいつは瑠華に敵意剥き出しだったけど、内藤チーフに場合年齢が離れてると逆にいいのかもしれない。


「じゃぁ、オトコのことで?」俺は緑川のマンションで鉢合わせた二村のことをさりげなく出すと、緑川は分かりやすく動揺した。


「えっと……あの……」


と、口ごもる。


そのときだった。エレベーターが到達する電子音が聞こえ、中から広報課の連中が二人程出てきた。一階ロビーで打ち合わせでもしていたのだろう。手には資料を持っていて、二人組の男は何やら打ち合わせの内容について話し合っている。


だが俺と緑川を見ると


「あ、お疲れ様です」と言って軽く会釈。


「お疲れ様です」俺もそれに返し


「お、お疲れ様です!じゃぁあたしも戻りますね」と緑川はそそくさとフロアに戻って行った。


何だアイツ??

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