Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「村木部長に、パワハラ??」
川田さんはちょっと意外な感じで目をまばたきさせ、
「いえ!それは違います!」と慌てて否定。まだ村木のことを恐れているのかと思ったが、どうやら違うっぽい。村木の名前を出しても彼は動揺しなかった。と言うか会社を辞めた今、苛めの主犯を庇う理由がないし。
「確かに村木部長は厳しい方で実際誤解されやすい方ですが、心根は優しい方です」
優しい!?
川田さんの言葉が理解不能な宇宙語に聞こえて俺は耳を疑った。
「本当の所は……両親が半年前に亡くなりまして……実家は田舎なんですけど、代々地主でその辺一帯の土地を持っていたんです。
地主なんで近くに親戚がたくさん居まして、遺産相続でちょっと揉めてまして。それが結構激しくて、裁判沙汰にもなってるんです」
「え!そーだったんですか!?」
しかも裁判!?それって相当じゃね!?泥沼……
「最初僕は田舎と東京行ったり来たりで、それだけでもストレスですし何せ裁判になると精神的にしんどくなって。仕事も中途半端になって、裁判があると出向かなきゃ行けないので会社を休まなきゃいけなくなって。このままじゃ会社に迷惑を掛けると思って、思い切って辞職しました。
まぁ、揉めてるとは言っても多少は蓄えもあるので、当面の生活は何とか……」
俺は単に村木のパワハラに耐え切れず……と言うか、噂じゃ村木は後任の二村が欲しくて邪魔だった前任の川田さんを辞めさせたって聞いたけど。それを素直に話すと
「とんでもない!」と川田さんは全否定。
「僕が、ちょこちょこ休むので迷惑が掛かると思い退職を願い出たところ、村木部長は落ち着くまで休職扱いにするから、戻ってこないか、と言ってくださって。
その他にももめ事の経過とか色々相談に乗ってくださって……村木部長の知人に有能な弁護士さんが居るからって、紹介までしてくれようとしたんですけど、流石に悪くてお断りしましたが」
え!?あの村木が!?
「そう言ってもらえてありがたかったです。でも、先の見えない争い事に実際疲れ切っていたフシもありまして……体力的にも精神的にもしんどくて……そう言うと村木部長は『それなら仕方ない。体調が一番だから』と納得してくださいました」
……ちょっと、いやかなり??意外な事実に驚きを隠せない。
アノ……どちらのムラキさんのことですか??と問い掛けたくなるが、間違いなく川田さんの上に居たのは村木だし、やっぱアノ村木だよな…
じゃぁ村木が川田さんを辞めさせたってのは完全なデマだったワケか。噂に尾ひれがつきまくりだな。
ま、村木もあんな調子だし誤解されても仕方ねーけどな。