Fahrenheit -華氏- Ⅱ

「柏木さんが言った通りだ?ちょっとしたアクシデントだな」


「……そうですかぁ?」と佐々木はどこか納得の言ってないようだったが、良い意味でも悪い意味でも瑠華の性格を把握してると見える。


瑠華がそう言うなら、と言った感じで


「じゃぁ僕コーヒー淹れてきますね」と席を立った。


佐々木が席を外したのを見計らって、俺は


「これ、頼まれてたもの」と瑠華に薬の紙袋をこそっと手渡した。


瑠華はすぐにちらりと中を覗き、確認できると「ありがとうございました。お手数おかけしまして」と言って頭を下げる。


ふぅ。ブツの受け渡しは無事終わったぜ。


「もしかして、これを手渡してくれるためにドーナツを?」と瑠華が目をぱちぱちさせて


「いやー、違う違う。単に食いたくなっただけ。疲れてるんだよな、きっと。……糖分が欲しくなったの」と慌てて手をふりふり。


だけど二村と被るとは。


まぁ、でもあの感じからすると瑠華が言った通りあいつに故意はなかったってことだよな。


ついかっとなって、ってとこか…


それでも俺は瑠華の手首が気になって


「手首大丈夫?」と聞いた。


「先ほども言いました。痛くもありませんし痕もありません。ほんの少しぶつかった程度です。私はそんなにやわじゃありません」


ひゅぅう~


またも木枯らしが…


「でもでもっ、折れそうなほっそい手首だし」


「部長」


瑠華は真剣に俺を見つめてきた。


え…?何なに?


「人間の骨はそんな簡単に折れません」


木枯らし三号が吹きました。


それでも


「ドーナツ美味しそうですね。ありがとうございます」


と、こっちは二村の時とは逆で何だか楽しそうに箱の中を覗いている瑠華ちゃん。


な、なんかちょっと嬉しいかも。


そんなことをしているうちに佐々木がコーヒーの入ったマグをトレーに乗せ戻ってきた。


話題のドーナツ屋のドーナツは思いのほかうまかった。


糖分を胃に入れりゃ、今日あったあれこれをドーナツと共に消化してくれそうだったから……なんて単純な理由で買ったけど……そんな簡単に無かったことになんて


やっぱ、できねーよ。


佐々木がコーヒーを淹れて戻ってきて俺たちは三人揃って少しばかりの休憩を取り、十分ほど雑談をしたところで仕事を再開させた。


定時を少し過ぎたところでやはり瑠華が早々と席を立ち、佐々木はその一時間後に帰りの支度に取りかかる。俺もそれにならった。


今日は裕二と心音ちゃんを引き合わせるミッションが残っている。ちょうどドーナツでエネルギーをチャージしたし、何が起こっても対応できる気がした!

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