Fahrenheit -華氏- Ⅱ
それから二人でそれぞれ紹興酒を口にしていたが、ただ会話らしい会話は途切れた。
どう見ても“楽しい飲み会”とは程遠い。お互い口を閉ざし無言で酒を飲んでるだけ。隣室からは相変わらず心音ちゃんと裕二の会話が聞こえてくるだけだ。
普段ならそれだけで満足するが、今はちょっと気持ちの悪い引っかかりみたいなものを抱えている。それが喉に詰まってる感じだ。
その詰まりはいくら紹興酒で流そうとしても、消化することがないようだ。
諦めて俺は今日あった出来事を話し聞かせた。プライベートでも日報かよ!と突っ込みたくなるような内容だったが、無言より良い。
一日の出来事を話しているうちに陰険村木の話になった。プライベートまであいつの話を持ち込みたくなかったが、流れで??って言うか相談もしたかったし。
俺と村木の喫煙ルームでの会話を聞かせると、流石の瑠華も気味悪そうに眉間に皺を寄せた。
「あなたの女性の好みを知ってどうするって言うんですかね」
「だろ?気持ち悪いっちゃありゃしない」
瑠華の心ここに在らずだった感じがすぐ近くまで戻ってきた感がして俺は思わず身を乗り出し、ソファの背に腕を置いた。
「でさ、ここからが本題なんだけど……」言いかけると
「お断りさせていただきます」と相変わらずの無表情を浮かべて、アッサリバッサリ。
………
「てか俺まだ何も言ってないんスけど!」
思わずいつもの調子でキっと目を吊り上げると、瑠華の反撃に合うかと思いきや、思いのほか瑠華は楽しそうに声をあげて笑った。
「あなた相手だとどうも神妙なのが続かないようなので」
神妙??俺ぁいつだって神妙だよ!!と再び突っ込みたかったけれど
「その……明日さ、夜とかちょっと空いてない?」
上目遣いで聞いてみると、
「時間を作ろうと思えば作れますが、まさか……」瑠華が言いかけて、彼女の唇にそっと人差し指を立てると
「そ。村木の後を追いかけるの。尾行ってやつ」
そう言い置くと、
「随分と―――
神妙な話ですね」
瑠華はちょっと考えるように目を細め、それでも
拒絶はされなかった。