Fahrenheit -華氏- Ⅱ


と、まぁクロキリの情報はおいといて~


俺たち二人が揃って15分程経過した。俺が適当に頼んだ刺し盛りや天ぷらの類の料理が運ばれてきて、だがそれに手を付ける気にもなれず奥の個室ばかりが気になる。


ちらちらと背後を窺っていると


「あまり不審な動きをされない方が宜しいかと。部長、お料理一口も手につけてませんよ?」


と、瑠華は形だけと言う感じでデジカメで出てきた料理を写真に収めている。


まぁ確かに瑠華の言うことは一理ある。


さっきから注意深く観察していたが、個室が一体何部屋あるのか、そこに何組の客が居るのか見当がつかない。


が、少なからず村木が居るのは間違いない。因みに村木が入って行った後、その個室に誰か客が入る様子は無かった。つまり村木が一番最後に到着したのだ。


和服姿の仲居が料理や瓶ビールの乗ったワゴンを引き、個室の廊下へ向かって行くのを二往復見届けた。


ちらりと見えたがそれが前菜のようなものだと言うことだけ分かる。


コース料理か。


と言うことは早くても二時間は掛かる。


瑠華は出汁巻き卵を口に含み、


「部長、これとても美味しいです」


と、メガネの奥で目をぱちぱち。


あら、そ?それは良かった。俺は村木の監視でそれどころじゃない。


が、それを瑠華にたしなめられた。


「自然に、と言いましたでしょう?料理を食べずフードライターが務まりますか?」と軽く睨まれ怒られて、それもそうだな……と考え直し、昼飯以降何も食ってないのに食欲なんて全然無かったが、瑠華が美味しいと言った卵焼きを無理やり口に放り込むと、それは瑠華が言った通り、


うまかった。


「明太子と海苔?うま」


思わずマジマジと卵焼きをあちこちの角度から眺めていると、瑠華はうっすら微笑んだ。


「そうですね。それぐらいが自然で宜しいかと」


そう言われてはじめてちょっとだけ頬が緩んだ。


俺は村木の尾行だけが気になってたけど、せっかく高級そうな料亭だから味わないと損だ。それに瑠華が言った通り俺は今フードライターの一人。


本来の(ちょっとした)余裕てのが戻ってきて、俺は今まで手付かずだった料理に箸を伸ばした。


それまでは村木の動向だけが気になって食欲なんてまるきり無かったのに、一度口に付けるとそのどの料理も思いのほかうまいことに気づいて俺の止まっていた箸が進みだした。


それでも完全に食事に集中することができず、やはり村木の居るであろう個室の方に視線を配っていると、そこから20分程して個室から若い女が出てきた。


神流グループの会社の人間か……?と疑ったが、年齢的に俺とさほど変わらない感じだったし、その年齢で重要な役職付きだとは思えない。スルーしていいかと思ったがその女が俺たちのすぐ近くを通ってトイレに向かうと、瑠華は箸を置いた。


「様子を見てきます。もしかして村木さんが隣室かもしれないので何か聞きだせたのなら」


と席を立ち上がる。


た、頼もしいぜ!


と言うわけで偵察を瑠華に任せて、俺は一人席に残り村木の動向を見張ることにした。


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