Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「お前、大人しく帰ったら?」
俺が呆れたように言うと、
「行きましょうよ♪一緒に♪刺身食いに」
「だから行かねぇっつたろ!」
俺がうんざりしたように言うと
「ならコーヒーだけでもどうですか?」
二村は急に声のトーンを低めて、口元ににやりと怪しげな笑みを浮かべた。
この意味深な表情が気になる。怪訝そうに眉を寄せ目を上げると
「何で俺がお前とコーヒー飲まなきゃならない」と考えた結果、至極普通な返答をかえした。
「ちょっとここでは話せないことがあって」
「話せないこと?」
それが何なのか知りたいが、知りたくない。
二つの気持ちがせめぎ合い、しかし俺は首を縦に振らなかった。
「やだなぁ、ただのお茶のみですよ~、最近、彼女がなぁんかよそよそしくて。今日も会おうって言ったら断られちゃいました」
「“どっちの”彼女だ?」
俺は嫌味たっぷりに聞いてやった。シロアリ緑川か、マドレーヌ瑞野さんか。
「やだなぁ、俺が二股掛けてるみたいじゃないですか」
その通りだろ。
「俺が付き合ってるのは葉月だけですよ~、あ…でも!俺がキャバクラ行こうって部長を誘ったこと、葉月には内緒ですよ」
二村は誰もいないか確認するように辺りをきょろきょろ。
幸いにしても誰も居ない。
俺と二村以外―――