Fahrenheit -華氏- Ⅱ

*Side Ruka*


.。・*・。..*・ Side Ruka ・*..。・*・。.


「ビンゴ~!」


ソファに座ってPCに向き合っていた心音は指をパチリと鳴らしソファに深く背をもたれかけ脚を組んだ。


「食いついてきた?」あたしはシャンパンが入った二つのグラスを手に、心音の横に座った。


「Exactly.(その通り)あたしがしこんだウィルスに引っかかたわ。これで“向こう”はあたしのIPアドレスを特定して、あたしが偽のHPを造ったと気付いた。


しかもいくつか架空会社を作って、裏HPへの誘導、PWもまき散らしたから信憑性があるわね。


あんたとあたしがこそこそ会社で会ってたことも印象に残ってるだろうし、あたしたちが組んで何かしようとしてると、あんたを陥れるネタを掴んで、今頃ほくそえんでるでしょうね」


心音はシャンパングラスを受け取って、あたしのグラスにカチリと鳴らし


「Cheers!(乾杯)」


と微笑む。


「バカね、あたしがこんな簡単なウィルスごときで倒せると思う?毒には毒よ」


「ウィルスにはウィルス?相手が心音の仕掛けを突き止めたけれど、それは罠?」


「Of course.(もちろん)」


心音は小さくウィンクして


「ついでに、そのあたしのIPアドレスを特定した人物の情報も入手できたわ。


あんたの会社のシステム課のキジマ ユウコ?」


キジマ ユウコ


聞いたことのない名前だった。


あの本社には何百人と社員がいる。システム課が抱えている人数もそう少なくない。


心音はPCを操ると、個人情報の履歴書と社員証を開いた。心音がキジマさんの正体を調べるのはあっという間だった。


キジマさんは木嶋と書く。年齢は39歳で独身。結婚歴は無し。現在は都内のアパートに一人暮らし。


更には顔写真まで出てきた。きっと履歴書か何かに添付されていたものだろう。


そんな詳細なデータも出てきて、あたしは思わず苦笑い。


「流石に個人情報を調べるのは手こずったけどね」


とは言っても流石、心音……と言うべきか。


木嶋さんは年齢より老けて見えた。社員証用に撮られたものだからか、若干気難しそうでもある。


「あたしにはただのおばさんにしか見えないけれど?」心音は肩を竦め「ジェシカの方が若く見えるわ。やっぱあの女は魔女ね」とジョークを交える。


「二村さんと彼女の関係は?」あたしが心音のPCを覗き込み、早口に言うと


「さぁ」と心音はまたも軽く肩をすくめる。「そこまでは調べられない。ただあたしのIPアドレスを特定したのがこのキジマって女で、現にこの女のIDが使われているわ」


二村さんはきっと瑞野さん経由であたしの稟議書を手に入れた。罠だと知らず、きっと木嶋さんを利用したに違いない。


二村さんはあちこちにネットワークがあると言った。現に麻野さんの詳細なデータを知っていた。


「大方、この冴えないおばさんを口説いたんでしょ?」と心音は早々に想像を口にした。


それにあたしも頷けた。


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