Fahrenheit -華氏- Ⅱ
二村さんは―――男女構わず年齢関係なく人と打ち解ける技を持っている。
相手が女性なら尚更。
39歳。結婚歴もなく、ただ仕事に邁進してきた女性。寂しくない、と強がっていてもやはり心のどこかに隙間はある。
その隙間から氷点下のような寒々しい冷気が流れ込んでくる。
その隙間を、冷気を―――二村さんが『偽の』温度で温めたのだ。
いっとき、心を許した木嶋さんは彼の言うなりになった。
簡単に想像がつく。
「キジマ主査ってなってるけど“シュサ”て何?偉いの?」
「“主任”の下ね。つまり麻野さんの下ってこと」
「Hmmm.(ふーん)なるほど。そこそこ名のある大学卒業をして、十五年間頑張った結果、シュサ止まり。一方のユージは専門学校卒業でどんどん出世。
面白くなかったワケね」
心音は「うーん」と唸りしかめっ面。
「男女の差がある、と?」あたしが聞くと
「違うわ。主任(?)と言う立場は完全にユージの実力。つまりユージ相手だったらあたしの仕掛けた罠に気付いた可能性もあるわ。話してると気付いた、彼、結構手強い相手ね」
心音は苦笑を漏らす。
「だからミスキジマは、その…シュサ?って言うの?止まりなのよ。
あんたの会社って意外に実力主義社なのね」
と、心音はどこか楽しんでいる風に言って、今度はあたしが眉をしかめる番だった。
確かにおじ様は決して性別で人を判断したり偏見を持ったりしないひとだ。
だから綾子さんと言う優秀な秘書を手元に置いている。
秘書は―――イマドキ女でなければならない、と言う掟はない。
綾子さんと喋っていて分かる。彼女もまた“優秀”だ。隙がなくそつもなく、的確に、ときに温かく、そして沈黙することもある。
それが秘書。