Fahrenheit -華氏- Ⅱ
ピンポーン
ふいにインターホンが鳴ってディスプレイを覗き込むと、コンシェルジュのイシカワさんが少し大きめの箱を手に立っていた。
『柏木様宛にお荷物が届いています。お渡ししても宜しいでしょうか』
あたしは着ていた大きめシャツだけの格好の上に慌ててガウンを羽織り、扉を開けイシカワさんから荷物を受け取った。
「何が届いたの?」
心音が興味深そうに床にそっと置いた黒い包装紙に品の良いゴールドのリボンが掛かった箱を覗き見る。あたしはリボンを解いて、“中身”を取り出した。
それはこないだ綾子さんとショッピングしたときに買ったハロウィンパーティー用のドレス。
上品なゴールド色のマーメイドロングドレス。ハートラインの胸元から腰に掛けて斜めに細かいプリーツが施されていて、お尻から下からは上質なカーテンのようにふわりと広がる裾。切り替えの場所に上品な薔薇が飾られているのもステキ。
「ウェストが合わなくて詰めてもらったの。それが仕上がったみたい」
「ふーん、可愛いじゃない。てかそんなドレスどこへ着て行くの?ここは日本だし」
「言ってなかった?内輪でハロウィンパーティーするの」
「ああ、あんたは殺人鬼?斧持って(笑)面倒くさがりは変わってないね」
「心音が凝り性なのよ。それもよく言われたよね。逆じゃないかって」
「そうそ、あたしが面倒くさがりなんて言うヤツどこのどいつよ、って感じよね」
心音は頬を膨らませる。
あたしはちょっと笑った。
ジョシュが言っていた、と言うことは―――言えそうにない。
「でも…ハロウィンパーティー?日本でもするの?」
「ここ数年多いみたいよ?あたしは知らなかったけど。ハロウィンになると仮装した人たちで街がいっぱいになる、とか」
「そうなの?」
「だから10月29日、ハロウィン前だけどちっちゃなパーティーしようって啓が言い出して…」
口にした途端、何故か口に手をやった。
「ふぅん」
心音はソファのひじ掛けに肘を置きにやにや。
「あ、あたしは!別に彼の提案だから気合い入れたわけじゃなくって」
「はいはい、今は面倒くさがりの瑠華じゃないってことは確かだわ」と心音は何故かわくわくした様子。
違うわよ。
……と言いたかったけど、ホントは
違わない。
きっと啓が好きそうなドレスだったから。彼が喜んでくれるのを見たかったから。
あたし―――いっとき色んな環境で変わったけど
やっぱり高校のときと何も変わってない。
啓とのロマンス―――
小説にしたらノート一冊では収まらないわね。
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