Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「そうゆうタイプには思えないけれど?だってあたしが短いスカート履くと喜ぶし」
啓はあたしの服装にあれこれ文句を言ったり、指図したりしたことは一度もなかった。
いつも喜んではいるけど…
それが結構楽だし、あたしも気分いい。
「それは自分がすぐ近くに居るからでしょ?見せびらかしたいのよ、あんたを。だけど目に届かない場所に居れば?」
ムー…とあたしは考え込んだ。
「どうせくるわよ。はい♪撮るよ~」なんて言って、結局心音のペースに流されるまま写真を撮らされ、(もちろん二人でね)そのあと勝手にメールを送りつけているし…
「どうせこないわよ」
「分からないじゃない」
そう言って、心音はテーブルに置かれた大判の茶封筒に手を伸ばす。
「こないだ言ってた件。できたわよ」
さっきのからかうような表情から一転、彼女は表情を引き締めてその茶封筒をあたしに渡してきた。
あたしは心音の隣のチェアに腰掛け、その茶封筒の中を取りだした。
中身はリゾート地のパンフレットだった。
広大な土地に緑の森と、青い空が広がっている。
「11日に間に合って良かったわ」
その言葉が意味することに、これがただのリゾート地のパンフレットでないことを読み取った。
あたしは目を開くと一瞬固まった。
誰かがプールに飛び込む音が聞こえて、弾かれたように我に帰ると、キョロキョロと辺りを見渡し、
近くにあたしたち以外誰もいないことを知ると、そのパンフレットを慌てて開いた。
ずらりと並んだ漢字の羅列。
―――北京語だった