私ひまわり、あなたは花屋
私ひまわり、あなたは花屋

 疲れているときほど、帰宅ラッシュ時の電車は座れない。

 そんな定説がたぶんこの世のどこかで論文で発表されてるんじゃないだろうか。

(あと寝坊した朝とかね)

 レディファーストという文化が日本に浸透してればそんなこともないのかもしれないけれど。

 逆に上司のセクハラは浸透してるくせにさ。

 あと、吊革はもう少し長くするべきだとも思う。

 人より“ほんの少しだけ”背が低い私には正直掴まる方が疲れてしまうのだ。

「っと……」

 不意に揺れた車体に合わせてつま先に力を込める。

 なれたものだ。

「ふぅ……」

 そんな中、ふと思う。

 帰宅ラッシュ時の電車内にいる人は皆、しおれ、枯れた“ひまわり”のようだ。

 皆一様にうなだれて、どこともつかない点を見つめている。

 そして大概、規則性を持った方向に顔を向けている。

 席に座った人は目の前に立つ人の膝辺り。

 立った人は息苦しさを紛らすために、周囲の“頭”の隙間から微かに覗く窓の方。

 それが毎日、毎日続く。

「っと……んぐっ……」

 またひとつ強く揺れてつま先に力を込めた私は、妙に“湿気”を感じる男性の背中に顔をしかめる。

 手で払いたくても腕を上げる隙間がない。

 いつもならドア付近になんとか陣取って人一倍の閉塞感を回避するのだけれど。

 あいにくと今日はお肉の波によって通路の中央まで押しやられてしまったのだ。

(く、くひゃい……)

 丸1日分の汗が煮詰まった臭いに窒息しかけたその時だった。



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