藤井先輩と私。
「僕がすべてを壊した…あの日まで僕はずっと、自分の才能に酔いしれていたんだよ。情けない話だよな。あいつが…千鶴が死んでから、そんな自分の愚かさに気付くなんて…」



パパさん。


パパさんは、藤井先輩を見るでも私を見るでもなく、ただ遠くを見ていた。



「パパさんは…どうして、藤井先輩を大阪に連れ戻したいんですか?どうして藤井先輩の夢を反対するんですか?」


パパさんは、藤井先輩の事が嫌いなんですか?


率直に私は、となりの優しげなパパさんに聞いてみた。


先輩が傷つく答えが返ってきたらどうしよう。とは、思わなかった。


今のパパさんは、藤井先輩を傷つけるようなことは言わないって、妙に自信が持てた。






「僕は、僕自身が憎くて仕方がないんだ」


震える声でゆっくりと語る藤井父。


「僕は僕自身が憎くて仕方がない。仕事に追われ、自分を買いかぶり、家庭を顧みなかった自分が憎くて悔しい」


「いまさら遅い…いまさらそんなこと言われたって俺は、親父がずっと嫌いや」


先輩……。



「それでいい。僕の事を嫌いなままで構わない。だが…これだけは…僕の願いを聞いてくれないか?」


「インテリアデザイナーを目指すなと?」

「あぁ」


ガタンッ!

藤井先輩が突然立ち上がり、その反動で椅子が倒れた。


「っざけんな!」


「せっ先輩!」


怒った先輩やっぱり怖い。

けど、夢をあきらめろって言われて、怒らない人なんているだろうか。


「頼む」


「親父に従う筋合いはない」






「僕と同じ後悔はさせたくないんだ!」



今まで小さな声でしゃべっていたパパさんが、大きな声を出した。


「悠太、お前には才能がある。でもな…お前には僕と同じ悲しみを味わってほしくないんだ」



 
 

< 211 / 361 >

この作品をシェア

pagetop