藤井先輩と私。
 
急いで正面玄関まで行くと、藤井先輩がこっちに手を振っていた。

今日は午前中だけだったから、校内にほとんど生徒が残っていなくて、人だかりもできていない。



「先輩、お待たせしてすいません」

「そんなに待ってへんよ。ほな、帰ろか?」

「はい!」


藤井先輩の隣を歩く。

数メートル進んだ先で、


「……その、話なんやけど」


すごく小さな声で、藤井先輩が話し始めた。


ヒソヒソ話ってことは、すごく重要なこと?


「……てるか?…いう…、もし……へんか?」



あまりにも小さな声すぎて、内容がほとんど分からない。


「あのー」


「なっなんや!?返事か!?」


「返事?って…すいません。聞こえなかったんですけど…」


すいません。私の聴力がよわいばかりに。


「あっ…俺そんな小さな声で話してたか…。すまんすまん」


ゴホンと、咳払いした先輩は、もう一度はっきりした声でいった。 



「この前、約束したん覚えてるか?祭一緒に回ろうっていう…あれやねんけども、あれから予定変わってへんかったら…一緒に回らへん?」



先輩ことことをいうために、私を呼び出したの?

自然と私の顔は笑顔になる。


「約束忘れてるわけないじゃないですか!あのときも言いましたが…私でいいんですか?一緒に回るの。先輩だったらもっと可愛い子が」


「陽依以上に可愛い奴なんかおらへん!!」



















「先輩?」


「いや、その、なんというか…あれやあれ、そうやあれや」


人差し指を振りまわして、「あれなんやな、うん」と連発する藤井先輩の慌てように私は思わず楽しくなって笑ってしまう。


「あははっ…先輩、慌て過ぎです」





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