藤井先輩と私。
「そしたらお父さんはなんて言ったの?」


「『彼女はお前だろうが!!』って大声で…さっき陽依を呼んだときみたいに」


えぇー。

ランチって、社内の食堂でしょ。

社員の人がいっぱいいるのに、あんな大声で!?


信じられない。


「しかたなかったんだよ。ずっと俺は付き合ってるって思ってたんだから。あれは母さんが悪い」


むすっといじけるお父さん。


「まさか、私が彼女だったなんて思ってなくて、お母さんうれしくて泣いちゃって、そしたらお父さん…やけになっちゃって。『俺と結婚してください』ってまた大声で叫んだの」



へぇぇぇ~。


びっくり。


お父さんってそんなに大胆だったんだ。


お父さんは恥ずかしそうにあさっての方向を向いてる。


「私もずっと好きだったし、断る理由なんて一つもなかったから、『はい、よろしくお願いします』って言ったの。そしたら周りのランチ中の社員みんなが拍手してくれて…あの時はもう恥ずかしかったわ!ほんとに!」




お母さんは、また火照った顔を両手で仰いぐと、「さっ、ご飯が冷めちゃうわ」と黙々と夕ご飯を食べ始めた。


お母さんとお父さんの馴れ初め。

聞けて良かった。


大声で好きだっていうのは、私にはできないかもしれないけれど。

いろんな伝え方があるって分かったし。

それに、ちゃんと言わなきゃ分からないって分かった。



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